危険な糖質制限にご注意!健康な人でも起こりうる「低血糖」のリスクと、安全な糖質摂取の重要性
はじめに
「糖質制限ダイエット」は、根強い人気があり世間に広まっています。
しかし、安易な自己判断による極端な糖質制限は、健康な方であっても深刻な低血糖を引き起こす危険性があることをご存知でしょうか。
めまいや倦怠感、ひどい場合には意識障害にまで発展する可能性もあり、そのリスクは決して軽視できません。
この記事では、なぜ極端な糖質制限が低血糖を招くのか、そして安全な糖質摂取がいかに私たちの健康に不可欠であるかについて、詳しく解説します。
糖質が不足すると何が起こるのか
私たちの身体、特に脳は、主なエネルギー源としてブドウ糖(糖質)を必要としています。
脳は非常に多くのエネルギーを消費する器官であり、その活動を維持するには安定したブドウ糖の供給が不可欠です。
糖質の摂取が極端に不足すると、脳はその活動に必要なエネルギーを得られなくなり、様々な不調が生じます。
これが低血糖状態です。
初期症状としては、めまい、冷や汗、動悸、手の震え、倦怠感などが挙げられますが、重度になると意識が朦朧としたり、痙攣を起こしたり、最悪の場合には意識を失う(意識障害)といった危険な状態に陥ることもあります。
なぜ健康な人でも低血糖になるのか?
「健康な人なら、糖質が足りなくても身体がなんとかしてくれるのでは?」と思われるかもしれません。
確かに、私たちの身体には、糖質の摂取が不足しても血糖値を維持しようとする精巧な防御機構が備わっています。
その代表的なものが、体内でブドウ糖を新しく作り出す「糖新生(とうしんせい)」と、肝臓に貯蔵されている糖質を分解して放出する「グリコーゲン分解」です。
糖新生は主にアミノ酸(タンパク質の分解物)や乳酸、グリセロールなどを原料としてブドウ糖を生成する働きで、グルカゴン、コルチゾール、カテコラミン、成長ホルモンといったホルモンがその働きを促進します。
これにより、食事から糖質が入ってこなくても、ある程度の血糖値は維持されるようになっています。
しかし、この防御機構にも限界があります。
極端な糖質制限が長期間続いたり、あるいは飢餓状態に陥ったりすると、体内のブドウ糖源が枯渇し、糖新生やグリコーゲン分解だけでは血糖値を正常に保てなくなります。
特に、運動時は筋肉で安静時の数倍ものエネルギーが消費され、その主要なエネルギー源の一つが糖質です。
運動強度が高まるにつれて糖質利用の比率が増大し、筋力トレーニングのような強度の高い無酸素運動では、ほとんど糖質のみがエネルギー源なので、糖質が不足しているとより一層低血糖に陥りやすくなります。
このような状況が重なると、健康な方であっても、防御機構が破綻して重度の低血糖を引き起こすリスクが高まります。
実際に、極端な糖質制限が原因で低血糖性意識障害を起こした事例が報告されています。
あるケースでは、数日前から糖質をほとんど摂取せず、動物性タンパク質を中心とした食事に偏り、さらに数日間は糖質を一切摂らないという極端な糖質制限を実施していました。
この方は普段から比較的低いエネルギー摂取量(自己申告で約1400kcal)であり、タンパク質は多く摂っていましたが、糖質は130g以下と少なめでした。
このような状況でさらに糖質を厳しく制限した結果、低血糖による意識障害に至っています。
この事例からわかるように、自己流で極端な糖質制限を行うことは非常に危険です。
普段から十分なエネルギーを摂取していない方が、さらに糖質を制限すると、体内のエネルギー供給が追いつかなくなり、低血糖のリスクが著しく高まる可能性があります。
安全な糖質摂取量の目安と、バランスの取れた食事の重要性

一般的に、脳が1日に消費する糖質の量は約130gとされています。
日本人の食事摂取基準などでも、炭水化物の摂取量を130g/日以上とすることが推奨されています。
もちろん、糖尿病の血糖マネジメントにおいては、短期間の緩やかな糖質制限が血糖コントロールに有効であるという報告もあります。
しかし、これはあくまで医師や管理栄養士の指導のもと、個々の病態や身体状況に合わせて慎重に行われるべきものです。
健常な方における糖質制限の長期的影響については、まだ不明な点が多く、科学的な根拠が十分とは言えません。
健康的なダイエットや持続可能な食生活を送るには、極端な糖質制限に走るのではなく、糖質、タンパク質、脂質をバランス良く摂取し、様々な食品群から栄養を摂ることが最も重要です。
特定の栄養素を極端に排除するのではなく、多様な食品を適量食べる「バランスの取れた食事」こそが、健康維持の基本となります。
低血糖を防ぎ、健康を守るには
低血糖を防ぎ、安全に健康的な生活を送るには、以下の点を心がけましょう。
- 極端な糖質制限は避ける
安易な自己判断での糖質制限はせず、もし必要であれば医師や管理栄養士に相談し、適切な糖質量を設定してもらいましょう。 - バランスの取れた食事を心がける
糖質、タンパク質、脂質、そしてビタミンやミネラルもバランス良く摂取できるような食生活を目指しましょう。 - 運動量に応じたエネルギー摂取
運動をする際は、消費するエネルギーに見合った糖質を十分に摂取し、エネルギー不足にならないように注意しましょう。
特に、強度の高い運動をする場合は、運動前後の糖質補給が重要です。 - 体調の変化に注意を払う
めまい、動悸、冷や汗、強い空腹感、手の震え、倦怠感など、低血糖の症状が現れた場合は、速やかにブドウ糖を補給し、症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
専門家への相談を検討しましょう
ご自身の食事内容や健康状態に不安がある場合、あるいは特定の疾患で食事制限が必要な場合は、自己判断せずに医師や管理栄養士などの専門家に相談することを強くお勧めします。
専門家のアドバイスを受けることで身体に合った、より安全で効果的な食事プランを立てることができ、健康的に目標達成を目指せると思います。
無理のない範囲で、正しい知識をもって健康維持に努めていきましょう。
参考文献
- 岡田博史ほか. 糖質制限と筋力トレーニングによって重症低血糖をきたした1例. 日本病院総合診療医学会雑誌 2025; 21(2): 61-62. (J-STAGE)
- (※上記J-STAGEのリンクは雑誌の該当号の目次ページへのリンクを想定しています。直接PDFへのリンクではない場合があります。)










